「オシムの言葉」を読まずにオシム監督を語ってはいけない
オシム語録の真意
本書中にはこのようなやりとりがあります。オシム監督の真意が垣間見える箇所です。
”
─あなたは、ご自分が紡ぎ出す言葉が、語録と称されて注目を浴びていることをどうお考えになっているのか。
しばしの沈黙の後、彼は言った。
「私は別にテレビやファン向けに言葉を発しているわけではない。私から言葉が自然に出てくるだけだ。しかし、実は発言に気をつけていることがある。今の世の中、真実そのものを言うことは往々にして危険だ。サッカーも政治も日常生活も、世の真実には辛いことが多すぎる。だから真実に近いこと、大体真実であろうと思われることを言うようにしているのだ」─あの会見の言葉も?
じっとこちらを見つめて口を開いた。ミステリアスな監督が、ようやく漏らした本音だった。
「言葉は極めて重要だ。そして銃器のように危険でもある。私は記者を観察している。このメディアは正しい質問をしているのか。ジェフを応援しているのか。そうでないのか。新聞記者は戦争を始めることができる。意図を持てば世の中を危険な方向に導けるのだから。ユーゴの戦争だってそこから始まった部分がある」
”
オシム監督の数々の発言には常に洞察と真の意図が隠れている。これに比して「オシムから、会長は何を言ってもいいんだと言われた」と言って揚々としていた川淵会長が人間としていかに軽率で矮小に見えることか。
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「オシムの言葉」を恥ずかしながらつい最近読みました。近年出色の良書です。
ベストセラーは、アホの壁がどうとかダヴィンチの謎がどうとか、ある程度売れるためにはどうしても低質でないといけないと相場が決まっているようですが、この本は違いますのでベストセラーというだけで避けていた方もどうかご安心ください。なお、タイトルから「オシム語録集」だと勘違いされてる人もおられると思いますが、オシム監督の半生を扱ったドキュメンタリーです。(勿論「オシム語録」も多数収録しています)
映画のような半生
オシム監督のユーゴ代表監督としてのキャリアは祖国の崩壊に重なります。メディアが民族間の対立を煽り、代表監督が有象無象の圧力を受けた時代。内戦で家族と生き別れ、生き死にも不明。苦心して創り上げた代表チームは戦火の拡大とともに櫛の歯が抜けるように瓦解してゆく…オシム監督の半生を知ると、頭を思い切り殴られるような思いがします。こんな苛烈な状況におかれながら、それでも圧力に屈せず、自らの信念を曲げず、その公正な姿勢は今も民族と国家を超えた尊敬を受けている。正に事実は小説よりも奇なりの文言を思い起こさせるものです。襟を正して不要な情緒を抑えた著者の取材姿勢にも好感が持てます。
オシム監督が日本代表監督を引き受けた本当の理由
なぜ数多くあるオファーの中から、日本に来ることにしたのか? 著者の問いに、祖母井さん(ジェフ千葉GM)が毎日電話で誘ってくれたり、直接会いに来てオファーをしてくれたからとオシム監督は答えます。「優勝したいのならレアルマドリーのオファーを引き受けていた」という言葉もありますが、実際にオシム監督はレアルのオファーを蹴ったことがあります。
「自分はビッククラブ向きではない、そこではサッカーについて監督が正しいと思ったことを正しく実行できないからだ」
人生とサッカーを同一視する監督が何を大切にしているか判る言葉です。
その信条を知ると、今回の騒動のように、クラブと協会間の力関係を利用して任期途中でオシム監督を無理矢理就任させた川淵会長のやり方がいかに無礼で卑劣なことか思い至ります。このような商業主義的、権威主義的なやり方は最もオシム監督が忌み嫌うところでしょう。礼をつくして監督をジェフに迎えた祖母井氏の心中も察して余りあります。
また、現在一部筋から
「代表監督は契約があって初めて成り立つもの、オファーを断ることもできたのだから、受けたオシムは同罪だ」
とするオシム・川淵連帯責任論が盛んに喧伝されていますが、これがいかに的外れで愚かな論かは本書を読めば瞭然です。
オシム監督を「消費物」にしてはいけない
本書は、オシム監督が今どんなサッカーを目指しているのかを知るためにも、全ての日本のサッカーファンが読んで損のない本だと断言します。この名将が今、日本の代表監督をしてくれているということの僥倖。
オシム監督を絶対に商業主義の「消費物」にしてはいけないと思います。すでに各方面でその気配があります。協会の欠点を正し、サッカージャーナリズムを鍛えようと時に厳しい言葉を投げかける監督に対して、これから一層JFAや一部マスコミを中心とした強い反発も予想されます。
「私が日本を出た後ろで扉が閉じられないことを祈る」
と言うオシム監督。数年後にそうならないように、今、我々サポーターは真剣にオシム監督の言葉に耳を傾け、日本のサッカーシーンにおいて何が問題なのか、オシム監督が何を正そうとしていて、誰を鍛えようとしているのか理解し、どう行動することが我々にとって「コレクト」なことなのか、考えるべきと思います。我々サポーターが、某テレビ局に代表されるような安易なサッカージャーナリズムのデマゴーグによって目を曇らせることがないように祈ります。
なお、この記事は商業的な宣伝を目的とはしておりませんので本書に関してリンクやアフィリエイト等は控えます。書店等でお手にとりください
「オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える 」
木村元彦 著・集英社インターナショナル
第1章 奇妙な挨拶
第2章 イタリアW杯での輝き
第3章 分断された祖国
第4章 サラエボ包囲戦
第5章 脱出、そして再会
第6章 イビツァを巡る旅
第7章 語録の助産夫
第8章 リスクを冒して攻める
第9章 「毎日、選手から学んでいる」
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